About
LBS活動について
Q.1LBS活動とは何ですか?
英語の絵本を読むことから始まり、英語の絵本の内容理解を基に、英語で発信する能力を養成できる一連の活動です。この活動は英語教育学の考え方と言語習得の理論に沿ったもので、段階的に取り入れた英語の知識を使って英語で発信できるように児童を導くことができます。
Q.2具体的にはどんな活動ですか?
第1段階は、教員が絵本を読みながらその内容を児童に推測させ、意見を聞いたりして、話の内容と児童の身近に起こっていることを関連付けながら読んでいきます。これをインタラクションと呼んでいます。インタラクションでは、登場人物のセリフに注目させて、その時の登場人物の心情について推測させます。
第2段階では、何回も絵本を読んだ後に、絵本の中の場面を話の筋に沿って並べる活動を行います。この第2段階の活動である場面の並べ替えは、児童に絵本の内容全体についての理解を促すことが目的です。最初は、クラス全体で行い、慣れてきたら、グループに分かれて児童だけで並べ替えをさせます。
第3段階では、場面の並べ替えの時に確認した話の流れについての知識を基に、それぞれの場面について英語で再話します。このリテリング(Retelling)の段階では児童は話についての理解が進んでいます。児童は絵本の中の表現を使って、その内容について英語で説明することができます。最初は、クラス全体で、黒板に貼った絵本の場面を見ながら、児童に再話させます。慣れてきたら、グループで再話活動をします。
第4段階では、英語で発信する活動を行います。高学年の児童の場合は、絵本の登場人物が何か新しいことをしている場面を見せて、それを英語で説明させるspeaking活動や、英語で書く活動を行います。中学年の場合は、絵本の話を書き換えたテクストを基に英語劇をします。また、オリジナルページを作成する活動も行います。まだ英語で書かれたテクストを読むことが難しい低学年児童は、絵を見ながら音声で英語の絵本を理解し、その絵本の内容を基に英語劇をします。
Q.3LBS活動は、低学年から高学年の英語の指導に同じように使えるのですか?
いいえ、すべての学年に対して同じ活動をするわけではありません。LBSはこの指導モデルを基本として、児童の認知能力と英語能力に適するように活動を応用していきます。それぞれの学年の児童にどのようなLBS活動を行うと効果的かということについては、毎年、学会で発表しています。初めは、私立小学校での実践授業で開発されたLBS活動ですが、2022年からは公立小学校でもLBS活動を使って英語を教えています。その効果については、これからさらに国内外の学会で発表していきます。4つの指導モデルを基本として、児童の認知能力と英語能力に配慮した一連の活動を「LBS指導法」と呼んでいます。
以下の図を見てください。それぞれの学年ごとのLBS活動について示しています。
Q.4この4つの活動だけを行うだけで児童の英語習得を促すことができますか?
Q.5なぜLBS活動の開発が必要なのでしょうか?
主に2つの理由があります。
第1の理由は、従来のように絵本を児童に読み聞かせるだけでは、児童の英語習得を助けることはできないからです。英語の絵本の読み聞かせは、確かに英語のインプットの機会として英語学習に役立つでしょう。しかし、英語をコミュニケーションの道具として習得するためには、絵本を英語で読み聞かせるだけでは充分ではありません。絵本の提供する場面や文脈の力を活用して、インプット(聞く・読む)からアウトプット(話す・書く)活動へと結びつけることで真のコミュニケーション能力の養成が実現できるのです。
第2の理由は、LBS活動を通して児童は英語をコミュニケーションの手段として身に付けることができるからです。学習者に単語や文法規則の暗記の積み重ねだけでは、真のコミュニケーション能力を養うという英語習得の達成は難しいでしょう。絵本を活用することで、学習者に英語のコミュニケーションができる文脈をたくさん与えることができ、児童の既習の知識や個人的な経験を引き出しながら、新しい学びと結びつけるといったリテラシーの視点が重要です。それを実現するためには、絵本の力を借りて、小学生児童のEmergent Literacy(リテラシー発現)に注目し、それを活用していく指導が必要なのです。
Q.6LBS活動ではどんな絵本でも使えますか?
基本的にどんな絵本でもLBS指導モデルに沿って、活動を組み立てることはできます。英語学習としてより効果的で、学習者の意欲を引き出す活動とするためには、いくつかの選書のポイントがあります。
・学習者に親しみのあるテーマや場面を扱っていること
・学習者の発達段階に合っているストーリーであること
・英語の難易度が学習者に合っていること
・絵から得られる情報が多いこと
本研究では、これらを満たした絵本として、研究メンバーによる書き下ろしの “Toro’s Story”や同僚の教員によって作成された“Takoyaki Boy”を使ってLBS活動を開始しました。この2つの絵本は、児童のEmergent Literacyを活かしながら、英語の理解から英語による発信能力の養成を実現させることができるものです。この2冊は研究費で印刷して、授業で使っています。今後も様々な絵本で、活動を開発していく予定です。
Our Story
1小学校英語教育学会課題研究からの出発
私たちの絵本のStorytellingを活用した英語指導法開発は、2018年に高梨庸雄先生(弘前大学名誉教授)をお迎えして小野尚美(成蹊大学)と田縁眞弓(京都光華女子大学)が小学校英語教育学会の課題研究費を得て始めた研究が出発点となっています。3人は、2020年に小学校英語教育学会紀要20号に「リテラシー教育の視点に基づくStorytelling活動―小学生の英語の読み書き能力を養う「Learning by Storytelling(LBS)の開発」という題名で、初めてLBSの考え方についての論文を発表しました。この指導法開発の名前LBSを考案してくださったのは、高梨庸雄先生です。
2メンバー4人の出会い
2020年度から、田縁の前任校のノートルダム学院小学校英語科の教員であるオーガスティン真智と吉本連が研究に参加し、小野が英語教育及び言語習得論の分野から考察を、田縁、オーガスティン、吉本は研究授業の実践と指導者の知見から得られる考察を行い、4人の協働研究が本格的に始動しました。
3Toro's Storyの誕生と高学年児童へのLBS指導
最初の研究対象は、英語が教科となり、英語の読み書きの指導が取り入れられた小学5年生と6年生児童でした。英語を学ぶ小学校児童のために、田縁とオーガスティンは、既に日本の英語学習者のための絵本”“Toro’s Story”を執筆していました。この“Toro’s Story”は、ノートルダム学院小学校付近にある宝ヶ池が舞台となり、主人公の小学生児童が時空を超えて不思議な体験をするといった冒険物語です。同年代の登場人物が経験するこの不思議な物語は、児童らの興味と想像力を掻き立て、英語学習を超えて絵本の想像の世界へ引き込ませることができます。LBSの理論的根幹となるEmergent Literacyの重要性という視点からも、読み手が個人的経験や知識を活用して言語を学ぶことができるため、この“Toro’s Story”は日本の英語を学ぶ児童にとって適した教材といえます。LBSの4段階目の発信活動では、“Toro’s Story”の登場人物が外国から来た友人を紹介するというSpeaking 活動や“Toro’s Story” の内容に関して英語で書く活動を行います。12のエピソードから成る“Toro’s Story”を読むごとに、児童は自身の学びについての振り返りを書き、指導者はその振り返りを分析して、英語学習の躓きの改善に活かしていきました。この振り返りは、教員にとっても指導の質の向上に役立っています。
4日本の昔話と中学年児童へのLBS指導
“Toro’s Story”を使った高学年児童の指導に続き、中学年児童に対してもLBS指導を実施していきました。中学年児童の場合は、英語の難易度を考慮し、児童が読み慣れている “Momotaro”を題材として指導を実施しました。この“Momotaro”は文部科学省の発行した外国語活動教材 “Hi, friends!2” に掲載されたものを使用しています。英語の文字を読むことにはまだ慣れていない中学年児童も、“Momotaro”はよく知っている内容で、イラストによって話の内容が表現されているため、LBSの活動を通して英語に親しむことができました。他にも児童の馴染みのある絵本として“The Mitten”や“A Big Turnip”なども使いながらLBS指導を実践していきました。LBS指導において、高学年児童と中学年児童の違いは、4段階目の発信活動で英語劇やオリジナルページ作成をする点です。まだ英語で読み書く能力が限られている中学年児童とっては、英語劇やオリジナルページ作成は、無理なく英語で発信する良い機会となっています。
5Takoyaki Boyと低学年児童及び幼稚園児へのLBS指導
ノートルダム学院小学校では、1年生から英語のクラスがあります。アルファベットの歌や繰り返しの多い英語の歌を、ジェスチャーを付けて歌うことで、英語に慣れ親しむという段階の1年生でもLBS指導を実践しました。低学年児童の英語活動には、同小学校勤務だった外国人講師の作成した“Takoyaki Boy”という絵本を使ってLBS指導を試みました。“Takoyaki Boy”は、主人公のたこ焼きボーイが、仲間のたこ焼きを食べようとする人間を退治するために、青のりボーイ、マヨネーズボーイ、鰹節ボーイを引き連れて人間と戦い、追い払うという内容です。話の流れは、児童に親しみのある“Momotaro”のお話と似ていて、青のりボーイたちには、“Momotaro”のきび団子ではなく「タコの足」をあげています。ほとんどの児童がたこ焼きを好きであること、話の内容が“Momotaro”と似ていること、単純な英語表現の繰り返しだけで話の内容が十分理解できるイラストの力が、英語に慣れていない低学年児童の英語への興味を駆り立てます。 “Octopus”といった長い単語も絵を見ることでその音をすぐに言えるようになります。さらに、田縁は、京都光華女子大学附属幼稚園にて、この“Takoyaki Boy”を使って英語の授業を行ったところ、低学年児童と同様にこの絵本に興味を示し、お面を作って簡単な英語劇を行うことができました。これらの実践授業の試みから、絵本を使ったLBS指導は、児童の英語能力や認知能力の違いを考慮しながら、適した絵本を使うことで、その効果を発揮することがわかってきました。
このようにして、高学年児童を対象としたLBS指導は、中学年、低学年、幼稚園児童の英語学習にも応用し、児童の英語への関心を高め英語学習を楽しませる効果が見られます。それぞれの事例については、毎年、国内外の大会にて報告しています。
6LBS指導モデルについての著書の出版
2022年11月に、それまでの研究内容を『Learning by Storytelling 小学校英語とストーリーテリング 絵本の読み聞かせに始まる指導案・活動・評価』にまとめ、研究社から出版しました。Storytellingとはどのような役割を果たしているのか、小学生の英語教育のために絵本のStorytelling活動の開発がなぜ必要なのかという疑問から始まり、LBSの理論的背景、LBSの高学年、中学年、低学年の英語指導への応用方法、LBSの指導法による評価方法について説明しています。この本の執筆にあたり、小野と田縁は、Storytellingの歴史とその活動について学ぶため、ニュージーランド(パース)で行われた女優でありコメディアンであるAndrea Gibbs氏のWorkshopに参加し、Storyteller になる経験をしてきました。また、小野はスコットランドにあるStorytelling Centerで行われているWorkshopに参加し、英語圏におけるStorytellingの役割について理解を深めました。この本の出版に伴い、2023年1月3日に小野、田縁、オーガスティンの3人はハワイ(オアフ島)で開催された2023年Annual Hawaii International Conferenceで研究内容の一部の口頭発表を行いました。
7令和4年度科学研究費補助金(基盤B)のはじまり
私たちの研究チームは、2022年度から期間4年で文部科学省から科学研究費補助金(基盤研究B)をいただき、『中学校英語に連携する小学校英語における絵本のストーリーテリング活動と教材開発研究』というテーマで、研究を続けています。本科研費研究では、私立小学校だけでなく、公立小学校の英語指導にLBS指導法を使い、その効果測定をします。さらに、絵本のストーリーテリング活動を公立小学校のカリキュラムに取り入れる方法についても模索していきます。研究分担者として関西学院大学の泉惠美子教授をお迎えし、公立小学校の先生方2名にもご参加いただき、実践研究を続けています。
LBS研究会の
研究・活動等のご紹介
著書
小野尚美・田縁眞弓(共編著)、オーガスティン真智・吉本連(著).(2022).
『Learning by Storytelling 小学校英語とストーリーテリング 絵本の読み聞かせに始まる指導案・活動・評価』
東京:研究社.
競争的研究費
令和4年度文部科学研究費補助金・基盤研究(B)研究課題目名:
「中学校英語に連携する小学校英語における絵本のストーリーテリング活動と教材開発研究」
(研究代表者:小野尚美・成蹊大学)
課題番号:22H00679
研究期間:4年
令和2年 成蹊大学 アジア太平洋研究センター、アジア太平洋研究センター共同プロジェクト
「多様性の時代―日本の英語教育を考える」
(研究代表:小野尚美)
研究期間:4年
小学校英語教育学会 課題研究(2018-2019JES)
「リテラシー教育としての小学校英語指導:Storytellingの英語の読み書き能力向上への効果を模索する研究」
(研究代表:小野尚美・成蹊大学)
研究期間:2年
論文
小野尚美.(2024).
“Storytelling活動による英語学習のすゝめーLearning by Storytelling(LBS)指導法の効果ー”
成蹊大学文学部紀要第59号, 1-20.
小野尚美・高梨庸雄・田縁眞弓.(2020).
「リテラシー教育の視点に基づくStorytelling活動―
小学生の英語の読み書き能力を養う「Learning by Storytelling(LBS)の開発」」
JES Journal, 20, 400-415.
口頭発表/講演/Workshop
オーガスティン真智、兵田千紗子(ノートルダム学院小学校)、ウィリアム八木 (ノートルダム学院小学校)、田縁眞弓
「絵本の読み聞かせに始まるLearning by Storytellingの指導―全学年を通して思考・判断・表現力をつける―(5年、一部3年)」
第23回小学校英語教育学会(JES)近畿・京都大会.2023年7月23日.
田縁眞弓 Workshop
「絵本で始める英語授業」
日本児童英語教育学会 JASTEC 第43回全国大会.2023年7月9日.
小野尚美、泉惠美子(関西学院大学)、赤枝康隆(明石市教育委員会)、宮武夏貴(尼崎市立尼崎北小学校)
「絵本を活用したLearning by Storytellingの実践-3つの公立小学校での試みー」
日本児童英語教育学会 JASTEC 第43回全国大会.2023年7月8日.
田縁眞弓.有限会社関西教育考学(京都大学発教育系ベンチャー)主催 京都大学学際融合教育研究推進センター地域連携教育研究推進ユニット共催
「LBS初級オンライン講座」
講師.2023年2月―3月
Naomi Ono & Mayumi Tabuchi.
“Learning by Storytelling (LBS): Creative Activities to Develop Literacy Skills.”
National Geographic Learning ELTNGL.Com A part of Cengage February 19, 2023.
小野尚美・田縁眞弓
「小学校英語とストーリーテリング~その理論と指導法~」
令和5年度 小学校外国語授業づくり研究会セミナー.2023年1月15日.
Naomi Ono, Mayumi Tabuchi, & Machi Augustine.
“Learning by Storytelling:
the Development of Effective English Activities for 3rd Graders Through Storytelling with Picture Books.”
The 21st Annual Hawaii International Conference on Education. January 3, 2023.
小野尚美・田縁眞弓.
「2022年度京都府私立小学校連合会 夏期合同研修会」
京都聖母学院小学校.2022年8月23日.
吉本連・オーガスティン真智・田縁眞弓・小野尚美.
「Learning by Storytelling(LBS)指導モデルに基づいた読み書きの素地作りにつなげる低学年の英語指導法」
第22回小学校英語教育学会(JES)四国・徳島大会.2022年7月18日.
オーガスティン真智・田縁眞弓・小野尚美.
「Learning by Storytelling(LBS)指導モデルに基づいた英語で書く力の素地となる中学年の英語指導法開発」
第21回小学校英語教育学会(JES)関東・埼玉大会.2021年10月10日.
田縁眞弓・オーガスティン真智・小野尚美.
「リテラシー教育の視点に基づく絵本の読み聞かせを活用した英語で書く能力を養成する指導法開発」
第20回小学校英語教育学会(JES)中部・岐阜大会.2020年10月11日.
小野尚美・高梨庸雄・田縁眞弓.
「小学校英語教育学会課題研究:リテラシー教育の視点に基づくStorytelling活動―
小学生の英語の読み書き能力を養う「Learning by Storytelling(LBS)の開発」」
第19回小学校英語教育学会(JES)北海道大会.2019年7月21日.
用語集
ICTの活用
タブレットなどのICT機器の活用は、インプット(聞く・読む)・アウトプット(話す・書く)の両面で児童の学習活動に役立てられます。
例えば、アプリを活用し、絵本の1ページごとに教員が録音したナレーションをつけて、データとして児童に配布することができます。これによって、児童は英語の授業以外の時間でも、自分のペースでストーリーを繰り返し聞くことができ、インプットの機会を増やすことにつながります。また、音声で繰り返し聞いて慣れ親しんだストーリーを、児童が自分で読んでカードに録音することで、自分の音声を客観的に聞き直したりしながら、繰り返し話す機会を持つことができます。
発信活動としてオリジナルシーン作りを行う際には、児童が作成したオリジナルシーンを写真に撮り、そこに自分の声でナレーションをつけさせることで、発表の機会を全員に確保することができます。
ワークシートの役割
LBS指導法ではワークシートの役割は重要で、それぞれの活動に沿って適切な内容のワークシートを実施します。LBS指導法の4つの基本活動では、始めから絵本に出てきたすべての単語の徹底した意味理解と暗記を目的としておらず、段階的な4つの活動を通して児童が自分の既存の知識を活用しながら、文脈の理解とともに無理なく徐々に意味を理解していくことが期待されています。いわゆるtop-down活動です。しかしその基本活動に沿って、復習活動としてワークシートをすることで、児童は学んだ知識を正確に取り込んでいくことができます。これはbottom-up活動となります。Storytelling活動で出合ったすべての英語表現を最初から暗記することではなく、何回も出てきた表現や気になった表現から英語の知識として取り込んでいくためにワークシートは作成されています。
インプット(取り込むこと)からアウトプット(発信すること)へ
LBS指導法では、英語のインプットから始まり、4つの基本活動を通して、児童が段階的に英語によるアウトプットができるようにします。絵本を教員と一緒に読みながら、インタラクションにより児童は絵本の話の流れとともに英語表現について学びます。ときには日本語で質問したり答えたりしますが、教員はできるだけ英語で質問します。話の内容の予測をさせながら読んでいきます。場面の並べ替え、リテリングは、インタラクションで取り込んだ英語の知識を徐々に口頭で使う機会となり、やがて4つ目の発信活動で、取り込んだ英語表現を使い、口頭で発表し書くようになっていきます。低学年児童の場合は、英語による簡単な劇、中学年児童の場合は、英語劇に加え、オリジナルページ作成活動では、英語で発信します。高学年児童は、英語で書く活動を行います。英語で書く場合も、絵本に出てきた表現を書写することから始まり、次第に自分の考えを英語で書く機会を与えていきます。
リテラシーの視点・Emergent Literacy
Emergent Literacy「リテラシー発現」とは、児童が小学校で教育を受ける前に既に、日常生活での人とのインタラクションを通してことばについての知識をある程度身に付けているという考え方です。これは、LBS指導法で核となっている概念です。言語は、語彙や文法知識の徹底した暗記、4つのスキルを繰り返し行うドリルによって確実に取り込むことによって習得されるというよりは、児童が既知の知識を土台に新しいことを学んでいく、与えられた文脈の中でコミュニエーションの必要性に応じて積極的に意思伝達をすることで習得されるリテラシーの視点が重要だと考えているからです。LBS指導法では、英語は単なる教科ではなく、もう一つの意思伝達のための言語と考えられています。学習者の知識や身の回りに起こりうる事柄を扱った絵本を教材として英語指導を行います。たとえは、高学年児童のためのオリジナル教材の“Toro’s Story”は、児童の身近にある出来事を話題としています。このようにEmergent Literacyを活性化できる教材を使うことはLBS指導法のポイントとなっています。
協働学習
LBS指導法では、児童同士の協働学習を有効な学習法だと考えています。4つの基本活動はすべて児童がお互いに学び合うことで英語学習が楽しくなり、英語が分かったという感覚をもてる協働作業による学習形態をとっています。低学年児童や中学年児童の英語学習の場合は、4番目の活動が英語劇になっています。小道具を一緒に作り、リハーサルを行うことで連帯感が生まれ、わからないところを教え合い、協働で英語劇を成功させるという共通目標をもって学習できることはとても意味のあることです。英語で発信することの難しさや、ジェスチャーを付けながら英語のセリフを言う困難さを共有し、ともに協力して一つの作品を作る達成感が児童の英語学習を支えています。高学年の場合も、4つの基本活動は協働作業による学習形態です。4つ目の活動には、“Toro’s Story”の主人公が友達を紹介するといった応用活動が含まれ、それまで習った英語表現を使って英語で書く活動があります。お互いの発表を見合うことで、学ぶことができます。協働学習を通して、自分の学習状況についても客観的に見ることができます。
振り返りシート
LBS指導法では、活動ごとに児童が振り返りシートを書くことになっています。A4サイスの用紙の最初の3問は4択または5択で、その日の学習をどの程度理解したと考えるか、英語がどの程度分かってきたか、自分は英語学習にどれほど積極的に取り組んだかなどである。これらの質問内容は、教員それぞれが何を児童に求めるかで違ってきます。後半は自由記述を1問か2問用意し、児童に自由に書いてもらいます。この質問も教員が何を知りたいかによって内容を替えることができます。
振り返りシートには2つの重要な役割があります。児童に自分の学習について振り返らせることで、どれだけ学び、どこが分からなかったかなどについて気付かせ、さらに何を目指して学習していくべきかを自覚させることができます。一方、教員は、児童の学習状況を理解することで、教え方に問題があったか反省するきっかけになり、そして具体的な指導方法の改善を助けます。
ルーブリック評価
まだ文字による発信が出来ない低中学年では、LBS指導の4つ目の活動として劇活動やオリジナルページを発表するという発信活動をおこないます。その場合に、教師が児童とそのめあて(ゴール)を共有し、その段階をルーブリックで設定したものを示すことでパフォーマンス評価を取り入れています。ルーブリックの作成にあたっては、どのような発表を目指したいか、あるいは望ましいかを児童と十分に話し合いそれを表にしたり、チェックシートにしたりします。ルーブリックを作成する場合は、ふりかえりシートで使う段階設計と連動させ、それを個々に振り返らせることを通して「次はこんな風にしてみよう」「友達の発表を見てこの点を参考にしようと思った」などといった学習への自己調整に繋がっていきます。ここで紹介するチェックシートは、“Momotaro”の劇発表を「ながれ」と「発表の工夫」という2つの観点から評価するために使ったものです。児童は、2つのポイントの段階をすでに話し合いを通して理解した状態で、その評価をお団子の数(1~3)で評価するようになっています。
Members
小野 尚美
(おの なおみ)
成蹊大学文学部英語英米文学科 教授。米国州立インディアナ大学大学院(ブルーミントン校)教育学部言語教育学科博士課程修了(Ph.D)。専門は、英語教育学と言語習得論。昭和女子大学短期大学部を経て、2004年から現職。2018年から2022年まで東京都教職員研修センター研修部専門教育向上課主催による小学校英語中核教員養成講座の講師を務める。文部科学省検定教科書 高等学校 外国語科用『WORLD TREK English Reading』(桐原書店)共著者。
田縁 眞弓
(たぶち まゆみ)
京都光華女子大学こども教育学部こども教育学科 教授。ワシントン大学卒業、ノートルダム女子大学応用英語学部修士課程修了。私立小学校および小中高一貫英語教育実践ならびに教員養成大学での小学校外国語指導を経て2021年より現職。文部科学省検定済教科書著者(小学校)。共著に,『小学校英語だれでもできる英語の音と文字の指導』『小学校で英語を教えるためのミニマム・エッセンシャルズ』(三省堂),「新編小学校英語教育法入門」(研究社)ほか
オーガスティン 真智
(おーがすてぃん まち)
ノートルダム学院小学校英語科教員.2014年より現職。同志社大学文学部英文科卒業。
第13回 京都私学振興賞 受賞(ノートルダム学院小学校 英語科)。
主な作品のジャンル:日本画、水彩画。その他のイラスト著書: “The Land of the Immortals” “Bedtime Wishes”(三民書局、台湾)、「縄文からアイヌへ」(せりか書房)、「オニヴァ!」(白水社)など
𠮷本 連
(よしもと れん)
ノートルダム学院小学校英語科教員.2017年より現職。京都教育大学 英語領域専攻 卒
第17回 京都私学振興賞 受賞(ノートルダム学院小学校 ICT教育委員会)
第13回 京都私学振興賞 受賞(ノートルダム学院小学校 英語科)